アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

シェイクスピア  『から騒ぎ』アリアドネ・アーカイブスより

シェイクスピア  『から騒ぎ』
2012-02-19 17:01:53
テーマ:文学と思想

http://ec2.images-amazon.com/images/I/41Ts%2BL5WNPL._SL500_AA300_.jpg


 「から騒ぎ」は、憎からず思っている独身主義者のベネディクと才知あふれるベアとリスの結婚話を縦軸に、もう一つのカップル、クローディオとヒーローの物語を絡ませて展開する、喜劇である。ベアトリスが結婚話に積極的に慣れないのは彼女の才知からすればどんな男でもバカのように見えるからであり、べネディクが独身を貫いているのは今少し自由な生活を楽しみたいがためにすぎない。

 ここに二人の上司でもありとり持ち役のドン・ペドロと云う君主がいて、これに心中不平不満が渦巻いている異母兄弟のドン・ジョンがいて、彼がしかけた企みにドン・ペドロとべネディクたちはまんまと掛かってしまう。あわや疑心暗鬼の中で仲間割れの果てにクローディオとべネディクの決闘かと云うところまで行くのだが、明敏な修道士の機知によりドン・ジョンの不純な企みは暴露され、目出度く二組の婚約が成立する、という目出度いお話しである。
 修道士は、「ロミオとジュリエット」においても同様の機知を働かすのだが、あの場合はたび重なる偶然の不運な組み合わせにより失敗するが、今回は見事に成功する。控え目な忍従の女性であるヒーローは自らの不運を嘆きこそすれ、運命を受容して不必要な動きを禁じて命運が転換するのを時間をかけて待つ。大団円では、死んだと思われていた彼女がヒーローの従妹として登場し、やがて本人であることをあかし目出度く祝福を受けて幕となる。

 数あるシェイクスピア喜劇の中でも劇的仕組みとしては簡素であり、物語の起承転結も他愛のないものであるが、恋人たちの仲を取り持つために仕組んだ劇中劇が常套手段とは言え、楽しい山場を造る。この劇作においてはシェイクスピア特有の、女性が男性に化けるという性変換劇もない。悪役たちも、ドン・ジョンにせよその手下たちにせよ、悪辣と云うよりは愚かである。これに云い間違いの司法書記が絡んで、何ともまどろこしい盛り上がりを見せる。やはり劇の魅力はベアトリストべネディクの間に交わされる辛辣な揶揄と皮肉と機知あふれる会話であろうか。
 

 

#その他文学
AD