アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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鈴木清順監督の『悪太郎』 アリアドネ・アーカイブスより

鈴木清順監督の『悪太郎
2018-05-14 09:59:42
テーマ:映画と演劇


 今東光の原作による、自伝的な青春ドラマである。観る側に既に先入見のごときもの――古い日活時代の活劇擬きと云う――があるので、それなりのつもりでシネラと云う図書館付設の映画館に見に行ったら、まず、丹波・豊岡の風光の美しさに思わず目が覚めた。
 川のある古い石垣と築地塀のある田舎の小道を歩く日傘姿の二人の少女も、日本人であることの美しさを思い出させる。
 映画の内容も、日本人の美しさを 回顧、詠嘆的に描いている。封建的遺制とそれに反抗する近代に目覚めたものとしての近代の輝きを!

 丹波の、豊岡と云う町は、例の応仁の乱の当時の一方の雄・山名宗全の故郷と云う以外は記憶がない。この古い田舎町を舞台に、当時ハイカラな町であった港町神戸の中学校を不行跡で退学させられた少年が、強権的な母親の意思で豊岡の中学校の校長の元に預けられて、旧態然、姑息因循の風習が残る田舎町の慣習や仕来りに逆らい、悪ガキぶりを発揮ながら成長していく、と云う物語である。
 友情があり、師弟愛があり、何よりも青春の愛がある。町の小町と呼ばれている娘との儚い愛情物語は、例によって、唐突にも肺病であることが解って、映画の最後では儚く死んでしまう。嗚呼、無常・・・・・、と云うべきか。
 ヒーローを演じた山内賢の袴姿も凛々しい。
 脇役を演じている芦田伸介が素晴らしい。どこに行っても反逆的で反抗的な悪太郎が、少数の同情者を得ただけで社会のシステムから切り捨てられる様を、社会に対する批評と云うよりも、悪太郎が過ごした時間の意味合いを回顧する慨嘆の想いと共に、すでに日本が美しき日本人とだけでばかりはあり得ないことを描いている。この映画だけではなく、むかしは校長先生とは大したものであったのだ。

 日傘の影に陰る若き日の和泉雅子の美しさと、丹波・豊岡の情感あふれる戦前の古き佳き日本を代表する故郷の失われた記憶と風景を描いて、まるで今日から見ると文化財のような希有な映画に仕上がっている。
 こういう映画を見せられると、なんと日本人は美しいのだろうと思う。