アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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ある神皇正統記――皇室の作法と文体 アリアドネ・アーカイブスより

 
 
 
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2016年8月6日 雲の墓標
 
 つくづく陛下を実在の今上天皇陛下として偉大な天皇であると思うのは、憲法の文法の脈絡を自らの実存に重ねて生きられたこと、その生きる過程のなかから、実在としての今上天皇のあり方と、象徴天皇制に於ける不可視の象徴天皇を見分けがたく重ねながら使い分けられる自覚を分別としてお持ちであると云うことだと思う。
 
 簡単に言えば、実在としての今上天皇陛下とは「国と国民の統合の象徴」としての、その人である。
 象徴天皇制における象徴天皇とは、永久平和を祈願する「諸国民」の王、である。個別的日本国家の皇室を代表する人格のひとつでありながら、理念としてはカントが『永世平和のために』や『啓蒙とは何か』に述べた、世界公民権の立場に立つ、普遍の法なのである。
 
 陛下はまた、例えば被災地を訪問され民と共に寄り添って生きようとされる時、現世の今上天皇陛下である。しかし痛みをもって慰霊地を訪問される時、時空を過去から未来へと貫く、永世平和に奉げられた首座御子としての象徴天皇制における不可視の象徴天皇である。諸外国歴訪の旅を巡行される時は、かってヘーゲルがナポレオンについて述べたように、馬上過ぎ行く世界公論的理性の遠い遥かなる反響であり面影を後南朝の山陵と杣の幻想のなかに観照し、篠笛の幻聴の寂寥のなかにひとり寂として聴く。
 陛下は和をもって憎しみと怒りを宥められたが、言葉の卓越と高貴さと厳かさに於いて並み居る永田町の国賊と朝敵どもを無言の威厳と品性と世界公民的言説の高みのなかに退けられるのである。
 
 画龍点睛という言葉があるが、ほどんど既製品のように渡された日本国憲法を、最後に魂を点じる、その行為を、創意工夫を凝らされて、「象徴」と云う常用日本語には耳慣れない言葉に、当初とは違った意味を、当初戦勝国側が期待したものとは違った意味を、生きられたものとしての覚悟をお読み取りになられた、陛下の独創に、思想的な営為に、長きにわたるその継続的意思の持続と継承に敬意を表します。
 昭和天皇が敷設され、その平和主義と世界公民の軌道の上に「象徴」の中身に魂を点ぜられ、それを継続する民族の意思として自らの実存に重ねて生きる王者の意思として選択された今上天皇陛下・妃殿下の共通の意思が、いよいよ確実に確かなものとなる確信がこちら側においても灯り、一段と公論として燎原の炎のように高まりつつ心の内奥の灯火として沈潜しつつ内面的な思想として深まるにつれて、たんなる言表行為を超えて生き方あり方の文体と諸作法に於いて、戦後最大の思想家でもあられたと云う思いはしみじみとした感慨のなかで深く重いのである。
 ご苦労様でした。