アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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逝く春を惜しむ――映画「細雪」のこと アリアドネ・アーカイブスより

 
4月20日 月曜日 雨 昨日は午前中本を仕入れるための、授業のシラバスを書くために図書館に向かう。帰りはバック一杯の本を詰め込んで階段を引き上げるのに苦労する(エレベーターがないので)。明日の3教科分の予習と、資料作りをしていたら、一日はあっという間に過ぎた。

今週は、明日大学院の懇親会に出席の予定。2週めにいる。舞台芸術の授業が楽しみだ。金曜日は定例の読書会に出席の予定。文芸春秋の編集になる「論争 若者論」である。会場は、趣のある天神のレトロな赤レンガ館。楽しみである。5月の連休がそろそろ始まるが、特に予定はない。図書館付属の映画館で市川昆シリーズが繰り広げるので、おの機会にまとめて見ようかと考えている。去年は、ありうべきことか、「細雪」には、異例の立見席が出た、と後に聞いた。

市川の「細雪」は、タイトルが流れる最初の5分間が全てであるという気がする。原作を何度も読み返しているわけだし、京都の大沢、広沢の池、嵐山は渡月橋の強調された水平感と、黄昏の空に佇立する平安神宮の桜で頂点に達する。また、1年がめぐってきた。このような良き日が人生にはあと幾たびあるだろうか。後に、谷崎夫人の松子さんがこの部分で感極まって、流れる涙をとどめることができなかった、と書いていらした。映画が始まるよりも前で、感極まってしまう映画とは、そうざらにあるわけではない。

わたしは、この後に続く、高雄は地蔵院の会食の席も好きだ。雨にけぶる縁側からの北山の眺め。ここはかわらけ投げで有名なところだが、何時行ってもここだけは凛然と、行楽客の喧騒も途絶えて、旅情というものを味わえる数少ない京の名所の一つである。市松に対向して整然と膳席を並べ、遅れている長女の到着を待つ。やがて襖の蔭からあでやかな微笑とはんなりとした京ことばの口上。そして羽織を脱ぐと裏地には絢爛とした文様が暗色に浮き出して!市川の様式美が、冴えわたっている。

<データ>
監督:市川昆
出演:岸恵子佐久間良子吉永小百合、小手川祐子、石坂浩二
東宝 1983年 35ミリ カラー 140分