アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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映画”クララ・シューマン 愛の協奏曲” アリアドネ・アーカイブスより

 
トロイメライ”や”子供の情景”とかの断片的なメロディを覚えているほか、は交響曲ライン等の数曲しか頭に浮かばない、わが国にはなじみの少ないシューマン。Tぽころがその妻のクララの名前は遙かに有名である。ヨハネス・ブラームスとの純愛についても。

芸術家を神聖視して描くことのタブーの破壊は、映画”アマデウス”などで著名になったが、ここでもブラームスは等身大の青年として、しかも年上のクララに純愛を奉げた人間として描かれる。映画の前半部でクララのピアノ曲がしばしば引用され、それがブラームスの愛情表現ともなっているが、音楽家クララ・シューマンの知識がないので私の理解の仕方には限界を感じた。

主演のマルティナ・ケディックという女性は舞台出身の著名な俳優らしいのだが、音楽性に対する理解の程度はどの程度だったのだろうかと、ふと思った。劇中、おっとシューマンの代わりに、指揮棒を握って振る場面が数回出てくるが、いかにもぎこちない。音楽に対する陶酔感がまるで伝わってこないのである。

ブラームスの描き方も淡泊過ぎて物足らない。ブラームスの音楽はわが国でもたびたび演奏されており、彼の名曲の数々が、どのようなシューマン一家のかかわりの中から生み出され、シューマンをめぐる種々の葛藤の中から交響曲第一番などが生み出されていったかを知りたいところだが、この映画ではクララの後を追うような形でブラームスも亡くなったと伝えるのみで、人間ブラームスは描かれたのかもしれないが、音楽家ブラームスが描かれたという印象を得るには程遠い感じがした。

フランソワーズ・サガンに”ブラームスはお好き?”という小説があるが、この題名の由来をこの映画を見て初めて理解した。年上の女性を愛する美青年の象徴なのだ。


<あらすじ>
聴衆が詰めかけたコンサートホール。演奏を終え拍手喝采を浴びるロベルト・シューマンクララ・シューマン夫妻は、見知らぬ男に呼び止められた。ヨハネス・ブラームスだった。彼との運命の出逢いを感じたクララは、波止場の薄暗い居酒屋に足を運ぶ。そこでヨハネスの才能を瞬時にして見抜いたクララは、彼の演奏に聴き惚れた。
その頃、ロベルトの持病である頭痛が悪化の一途を辿り始める。作曲さえままならない夫を救わんと、クララは指揮者として楽団員の前に立つ。「女性の指揮など前代未聞」との嘲笑にも耳を貸さずタクトを振り続けるクララは、たちまちオーケストラから見事な演奏を引き出した。
そんなある日、ヨハネスがシューマン邸を訪れる。たちまち夫妻の子供たちの人気者になるヨハネス。こうして、シューマン一家とヨハネスとの奇妙な同居生活は始まった。

クララへの敬愛を隠すことのない陽気なヨハネスは、苦労の絶えない彼女の心を明るく輝かせると同時に、楽団に馴染めないロベルトの最大の芸術上の理解者となる。しかし、頭痛に襲われ深酒に溺れるロベルトは、、ヨハネスを自身の後継者として音楽界に紹介する。そしてクララには、彼らの秘めた思いを見透かすように「私がいなくなってもヨハネスがいる」と告げるのだった。この緊迫に満ちた三角関係に耐えられなくなったヨハネスは、「一日中ずっと、昼も夜もあなたを想います」とクララに誓ってシューマン家を立ち去る。
一方、音楽監督の座を奪われたロベルトは、橋のたもとからライン川に身を投げる。幸いにして一命を取り留めたロベルトは、入院することになる。やがて、独り出産を終えたクララの心の支えとなるべく、ヨハネスが彼女の傍に戻って来た。
クララのもとに、ロベルトの危篤の報が届く。「クララ、決して終わらないよ。私の花嫁」。ロベルトはこう言い残して、最愛の妻の腕の中で静かに息を引き取った。ついにその時がきたと、ヨハネスはクララに求愛するが、ロベルトと生きた日々は、あまりにも大きな喪失となってクララの心を苛んだ。ヨハネスは囁き続ける。「僕はきみとは寝ないよ。それでも、きみをこの腕でずっと抱き続ける。命が尽きるまで。きみが死んだら後を追う。死の世界へお供する」
クララとヨハネスの友情は、クララの生涯の最期まで続いた。そして、それから約1年後、ヨハネスもまた黄泉の国へと旅立っていった。生前の約束通り、最愛の彼女を追いかけるように......。


監督:脚本:ヘルマ・サンダース=ブラームス
出演:マルティナ・ケディック(クララ・シューマン
   パスカル・グレゴリー(ローベルト・シューマン
   マリック・シディ(ヨハネス・ブラームス
2008年 ドイツ・ハンガリー合作 ドルビーSRD ビスタサイズ 109分 
字幕翻訳 吉川美奈子
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロスフィルム