ルコント映画”仕立て屋の恋”をみる アリアドネ・アーカイブスより
これぞフランス映画といった仕上がりの映画である。映画を観る前のポスターのセンスであるとか、原作がシムノンであることを確認したら、ある程度の映画作品になるであろうことは想像できる。ルコントという人についてはよく知らない。
映画を見終わった感想を一言でいえば映画冥利に尽きるということである。
しかし遣り切れないほど納得の出来ない映画である。ルコントもシムノンも上手いのだろうけれども、おそらくこれほど純情で、可哀そうな男もいないのではなかろうか。映画は分かりやすい。
頭の禿げた中年のさえない独身の男性が、ひょんなことから殺人事件に巻き込まれる。サスペンスドラマには違いないのだが、鑑賞後の印象は重い。軽めのサスペンスドラマの展開が邪魔になるほど、映画の訴えるものは強く大きい。そしてこんなことでいいのだろうか、一体全体このような非合理なことがまかり通っていいのかと思う。苦くて、この世界観には救いがない。
ドラマは殺人事件を目撃した男が、犯罪グループの女性に恋したがために、女に裏切られても、利用されても全ての罪を引っ被ってビルから落ちて死ぬ、つなり犯罪の被告として死ぬ、という救いのない結末である。暗すぎるし、切なすぎる。
恋する仕立て屋演じたミシェル・ブランの演出が実によい。仕立て屋だから仕立ての良い紳士然通した服装であるのはわかる。外見の強面と、内面の繊細さが実にアンバランスなのだ。それに禿で、面白みのない中年男とくれば、共同体の不満解消を一手に引き受けてスケープゴートになるのも何となく理解で来そうな気がする。それに、演出かが意図したかどうかは分からないが、風貌が、西側の人間が一番嫌いな、あのプーチン氏を連想させるというのは、時代設定の問題はともかく、深読みにすぎるのであろうか。
ハッキリ言って、地域住民と警察権力(刑事)のいじめ、であるといってよい。挙句の果てに、とことん利用されたことを知りながら、かれは女と刑事の前で最後にこういう。
”恨みはしない。素晴らしい愛の経験をありがとう”
昨日”エヴァの匂い”で、ダメ男の系譜について色々と書いたが、これはまたダメ男の極限態である。
あるいはと、あえて私は言おう――これは愛が、恋とか鮒とか、日常的些事にかかわる物事を超越してしまう、純愛の高貴な時間を描いていると。愛という名の偉大な作用が、いかなる影響を人に及ぼすのか、それはこのドラマに関わった下々の人間の世間じみた思惑を遙かに超えているのである。男の哀れさに涙したのではなく、愛の高貴さに涙しました。
goo映画より――
<あらすじ>
薄暗い公園でピオレットという青年が殺された。捜査を担当した刑事(アンドレ・ウィルムス)は、以前強制わいせつ罪で捕まったことのある仕立て屋イール氏(ミシェル・ブラン)の犯行ではと疑う。極端にきれい好きで孤独なイールは近所の人々からは嫌われており、売春宿に通い、ボーリング場で抜群の腕を披露することを習慣としていたが、そんな生活に変化が起きていた。中庭をはさんだ向かいに住む美しいアリス(サンドリーヌ・ボネール)の生活を、夜毎、電気もつけずにただ眺めることで、彼は彼女に恋い焦がれていた。アリスの部屋に時々婚約者のエミール(リュック・テュイリエ)が訪れるのも知っていた。アリスはエミールと結婚したいと願っていたが、彼はいつも返事をごまかしていた。ある夜、自分の部屋を覗き見るイールの存在に気づいたアリスは、最初ショックを受けるが、やがて事件のことを知っているかどうか確かめるためにイールに接近していく。はたしてイールは、エミールがピオレットを殺し、アリスに死体の処理を手伝わせていたのを目撃していた。だがイールはアリスを愛するあまり警察にはだまっていたのだった。初めはエミールを守るためにイールに接近したアリスだったが、徐々に彼の愛に心が揺れていく。それはボクシング観戦の日に絶頂となった。イールはアリスに一緒にスイスに逃げようと持ちかけ、リヨン駅で待つが、アリスは来ず、落胆したイールがアパートに戻ると、そこには殺されたピオレットのコートを彼の部屋に置いたアリスと、通報を受けてやってきた刑事が待っていた。アリスの裏切りに対しても「君を恨んではいない。ただ死ぬほど切ないだけだ」と話すイール。そして隙をついて屋上に逃げるが、足を滑らせて転落してしまう。アリスは全ての感情を押し隠して、その様子をイールの部屋の窓から見続けていた…。だが全ての真相は、イールがアリスと国外脱出するのを前提としてしたためていた刑事への手紙で明らかになった。
<解説>
仕立て屋の中年男が向かいに住む女性を愛するあまり、殺人事件に巻き込まれ、人生を狂わせてしまう物語。「髪結いの亭主」のパトリス・ルコントが、ジョルジュ・シムノンの原作『イール氏の犯罪』(邦題『仕立て屋の恋』ハヤカワ文庫刊)をもとに監督・脚本を手がけたもので、製作順としては「髪結いの亭主」の前作。製作はフィリップ・カルカソンヌとルネ・クレトマン、共同脚本はパトリック・ドヴォルフ、撮影はドニ・ルノワール、音楽はマイケル・ナイマンがブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」を主題に担当。
<作品情報 - 仕立て屋の恋>
原題 : Monsieur Hire
製作年 : 1989年
製作国 : フランス
配給 : デラ・コーポレーション
<キャスト(役名) - 仕立て屋の恋>
Michel Blanc ミシェル・ブラン (Monsieur Hire)
Sandrine Bonnaire サンドリーヌ・ボネール (Alice)
Luc Thuillier リュック・テュイリエ (Emile)
Andre Wilms(2) アンドレ・ウィルムス (L'inspecteur)
Philippe Dormoy (Fran8fa1dbois)
「仕立て屋の恋」キャスト一覧
スタッフ - 仕立て屋の恋
監督
Patrice Leconte パトリス・ルコント
製作
Philippe Carcassonne フィリップ・カルカッソンヌ
Rene Cleitman ルネ・クレトマン
原作
Georges Simenon ジョルジュ・シムノン
脚本
Patrice Leconte パトリス・ルコント
Patric Dewolf パトリック・ドヴォルフ<
撮影
Denis Lenoir ドニ・ルノワール
音楽
Michael Nyman マイケル・ナイマン
美術
Ivan Maussion イヴァン・モシオン
編集
Joelle Hache ジョエル・アッシュ
衣装(デザイン)
Elisabeth Tavernier
録音
Pierre Lenoir
映画を見終わった感想を一言でいえば映画冥利に尽きるということである。
しかし遣り切れないほど納得の出来ない映画である。ルコントもシムノンも上手いのだろうけれども、おそらくこれほど純情で、可哀そうな男もいないのではなかろうか。映画は分かりやすい。
頭の禿げた中年のさえない独身の男性が、ひょんなことから殺人事件に巻き込まれる。サスペンスドラマには違いないのだが、鑑賞後の印象は重い。軽めのサスペンスドラマの展開が邪魔になるほど、映画の訴えるものは強く大きい。そしてこんなことでいいのだろうか、一体全体このような非合理なことがまかり通っていいのかと思う。苦くて、この世界観には救いがない。
ドラマは殺人事件を目撃した男が、犯罪グループの女性に恋したがために、女に裏切られても、利用されても全ての罪を引っ被ってビルから落ちて死ぬ、つなり犯罪の被告として死ぬ、という救いのない結末である。暗すぎるし、切なすぎる。
恋する仕立て屋演じたミシェル・ブランの演出が実によい。仕立て屋だから仕立ての良い紳士然通した服装であるのはわかる。外見の強面と、内面の繊細さが実にアンバランスなのだ。それに禿で、面白みのない中年男とくれば、共同体の不満解消を一手に引き受けてスケープゴートになるのも何となく理解で来そうな気がする。それに、演出かが意図したかどうかは分からないが、風貌が、西側の人間が一番嫌いな、あのプーチン氏を連想させるというのは、時代設定の問題はともかく、深読みにすぎるのであろうか。
ハッキリ言って、地域住民と警察権力(刑事)のいじめ、であるといってよい。挙句の果てに、とことん利用されたことを知りながら、かれは女と刑事の前で最後にこういう。
”恨みはしない。素晴らしい愛の経験をありがとう”
昨日”エヴァの匂い”で、ダメ男の系譜について色々と書いたが、これはまたダメ男の極限態である。
あるいはと、あえて私は言おう――これは愛が、恋とか鮒とか、日常的些事にかかわる物事を超越してしまう、純愛の高貴な時間を描いていると。愛という名の偉大な作用が、いかなる影響を人に及ぼすのか、それはこのドラマに関わった下々の人間の世間じみた思惑を遙かに超えているのである。男の哀れさに涙したのではなく、愛の高貴さに涙しました。
goo映画より――
<あらすじ>
薄暗い公園でピオレットという青年が殺された。捜査を担当した刑事(アンドレ・ウィルムス)は、以前強制わいせつ罪で捕まったことのある仕立て屋イール氏(ミシェル・ブラン)の犯行ではと疑う。極端にきれい好きで孤独なイールは近所の人々からは嫌われており、売春宿に通い、ボーリング場で抜群の腕を披露することを習慣としていたが、そんな生活に変化が起きていた。中庭をはさんだ向かいに住む美しいアリス(サンドリーヌ・ボネール)の生活を、夜毎、電気もつけずにただ眺めることで、彼は彼女に恋い焦がれていた。アリスの部屋に時々婚約者のエミール(リュック・テュイリエ)が訪れるのも知っていた。アリスはエミールと結婚したいと願っていたが、彼はいつも返事をごまかしていた。ある夜、自分の部屋を覗き見るイールの存在に気づいたアリスは、最初ショックを受けるが、やがて事件のことを知っているかどうか確かめるためにイールに接近していく。はたしてイールは、エミールがピオレットを殺し、アリスに死体の処理を手伝わせていたのを目撃していた。だがイールはアリスを愛するあまり警察にはだまっていたのだった。初めはエミールを守るためにイールに接近したアリスだったが、徐々に彼の愛に心が揺れていく。それはボクシング観戦の日に絶頂となった。イールはアリスに一緒にスイスに逃げようと持ちかけ、リヨン駅で待つが、アリスは来ず、落胆したイールがアパートに戻ると、そこには殺されたピオレットのコートを彼の部屋に置いたアリスと、通報を受けてやってきた刑事が待っていた。アリスの裏切りに対しても「君を恨んではいない。ただ死ぬほど切ないだけだ」と話すイール。そして隙をついて屋上に逃げるが、足を滑らせて転落してしまう。アリスは全ての感情を押し隠して、その様子をイールの部屋の窓から見続けていた…。だが全ての真相は、イールがアリスと国外脱出するのを前提としてしたためていた刑事への手紙で明らかになった。
<解説>
仕立て屋の中年男が向かいに住む女性を愛するあまり、殺人事件に巻き込まれ、人生を狂わせてしまう物語。「髪結いの亭主」のパトリス・ルコントが、ジョルジュ・シムノンの原作『イール氏の犯罪』(邦題『仕立て屋の恋』ハヤカワ文庫刊)をもとに監督・脚本を手がけたもので、製作順としては「髪結いの亭主」の前作。製作はフィリップ・カルカソンヌとルネ・クレトマン、共同脚本はパトリック・ドヴォルフ、撮影はドニ・ルノワール、音楽はマイケル・ナイマンがブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」を主題に担当。
<作品情報 - 仕立て屋の恋>
原題 : Monsieur Hire
製作年 : 1989年
製作国 : フランス
配給 : デラ・コーポレーション
<キャスト(役名) - 仕立て屋の恋>
Michel Blanc ミシェル・ブラン (Monsieur Hire)
Sandrine Bonnaire サンドリーヌ・ボネール (Alice)
Luc Thuillier リュック・テュイリエ (Emile)
Andre Wilms(2) アンドレ・ウィルムス (L'inspecteur)
Philippe Dormoy (Fran8fa1dbois)
「仕立て屋の恋」キャスト一覧
スタッフ - 仕立て屋の恋
監督
Patrice Leconte パトリス・ルコント
製作
Philippe Carcassonne フィリップ・カルカッソンヌ
Rene Cleitman ルネ・クレトマン
原作
Georges Simenon ジョルジュ・シムノン
脚本
Patrice Leconte パトリス・ルコント
Patric Dewolf パトリック・ドヴォルフ<
撮影
Denis Lenoir ドニ・ルノワール
音楽
Michael Nyman マイケル・ナイマン
美術
Ivan Maussion イヴァン・モシオン
編集
Joelle Hache ジョエル・アッシュ
衣装(デザイン)
Elisabeth Tavernier
録音
Pierre Lenoir