アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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ロジェ・ヴァディム映画”危険な関係”をみる アリアドネ・アーカイブスより

 
この映画は二つの観点から興味を持った。
一つは、ジャンヌ・モローの映画であること。
二つは、ロジェ・ヴァデイムの監督作品であること。

モローの悪女ぶり、ということからすれば、”エヴァの匂い”からすれば初々しい?という感じがする。十八番になった、例の凍るような作り笑いがまだ板についていない。ドラマとしては勧善懲悪なのだろうけれども、顔に火傷を負っても悪びれないところがよい。また悪役に徹しきれない優柔不断さという意味でのジェラール・フィリップの起用は成功していると思う。

ロジェ・ヴァディムに関して言うならば、後年の――”悪徳の栄え”や”戦士の休息”のような、華麗な映像美には程遠い、初心で作ったという意味ではこれも初々しい感じである。

映画で一工夫されていると感じたのは、貞淑な人妻という役柄でマリアンネ夫人を演じたアネット・ヴァディム。映画ではデンマーク生まれの素朴な女性として、あえて言えば都会的センスの対極にある飾らぬ人格として描かれているのが良い。ヴァルモンが今までに経験しなかった女性のタイプとして、恋の手練手管と本心とを混同していく過程が映画では説得性をもって描かれている。たぶん純心で貞淑という設定だけでは、なぜヴァルモンが本物の恋に落ちていくのかを、現代のドラマとして説得的に描くのは困難であったろう。ヴァディムは自分自身の私生活上のモチーフ――アネット・ヴァディムは新婚ほやほやの外国人妻であったらしい――をうまく映画にとりこんでいるといえよう。

ヴァディムは、映画の最終シーンに新妻のために美しいシーンを用意した。ジュリエットの怒りによる一通の電報によってヴァルモンとの仲を裂かれたマリアンネ夫人が精神の異常をきたして、ヴァルモンとの未来の生活を夢のように語り、娘の気遣って訪ねてきた母親が娘の異常に直面する場面である。マリアンネの哀れさと、ジュリエットの凍ったような不遜さをダブルイメージとして重ねてこの映画は終わる。


<あらすじ>
外交官ヴァルモン夫妻と言えばパリの上流社会でも最も洗練されたカップルである。このカップルはまことに不思議な夫婦であった。妻ジュリエット(ジャンヌ・モロー)は、多くの男と関係をしながらも、夫ヴァルモン(ジェラール・フィリップ)を誰よりも愛していたし、夫ヴァルモンとて次々に女を変えながらも、一番愛しているのはジュリエットであった。しかも二人はお互のアヴァンチュールを報告し合うばかりか、その始末まで共謀でやっているのだ。

パーティの夜、ジュリエットは別れようと考えていた愛人ジェリ・コート(ニコラス・ヴォーゲル)が若いセシル(ジャンヌ・ヴァレリー)と婚約したのを知った。一寸した復讐心から、彼女は夫ヴァルモンにセシルの純潔を踏みにじらせてからコートに渡してやろうとする。ヴァルモンはセシルがクリスマスを過ごしているメジューヴでセシルを難なく物にした。セシルはまた、金持のコートと婚約しながら、真面目なダンスニ(ジャン・ルイ・トランティニャン)と恋をささやいているチャッカリ娘でもあった。

ヴァルモンはセシルを簡単に手に入れたが、メジェーヴで会ったマリアンヌ夫人(アネット・ヴァディム)に心を奪われてしまった。あらゆる手をつくして彼はマリアンヌに迫ったが、彼女は難攻不落であった。ヴァルモンの彼女に対する気持はとうとう本物の恋になってしまった。遂にマリアンヌもヴァルモンの情熱に屈した。夫のそんな変化にジュリエットはいささか驚いた。そして策をめぐらし無理矢理二人の仲を割いた。だが二人の仲にはしこりが残り、ジュリエットは夫への仕返しにダンスニを情人にしようとした。

ところがヴァルモンとセシルの仲を知らされたダンスニは、怒りのあまりヴァルモンを殺してしまった。警察が事情をしらべる前に、ジュリエットは二人の間に交された情事の手紙を焼きすてようとしたが、あやまって顔にやけどをしてしまう。スキャンダルはひろまった。つめかけた新聞記者を前にして、だがジュリエットは無惨に醜くなった顔を、昂然と上げていた。


フランス映画”危険な関係”1959年

キャスト(役名)
Gerard Philipe ジェラール・フィリップ (Valmont)
Jeanne Moreau ジャンヌ・モロー (Juliette Valmont)
Annette Vadim アネット・ヴァディム (Marianne Tourvel)
Jeanne Valerie ジャンヌ・ヴァレリー (Cecile Volange)
Jean Louis Trintignant ジャン・ルイ・トランティニャン (Danceny)
Simone Renant シモーヌ・ルナン (Mrs. Volange)
Nicolas Vogel ニコラス・ヴォーゲル (Jerry Court)
Madeleine Lambert (Mrs. Rosemonde)

スタッフ
監督
Roger Vadim ロジェ・ヴァディム

原作
Pierre Choderlos de Laclos ピエール・コデルロス・ド・ラクロ

脚色
Roger Vailland ロジェ・ヴァイヤン
Roger Vadim ロジェ・ヴァディム

台詞
Roger Vailland ロジェ・ヴァイヤン

撮影
Marcel Grignon マルセル・グリニョン

音楽
Thelonious Monk セロニアス・モンク
Barney Wilen バルネ・ウィラン
Art Blakey's Jazz Messengers アート・ブレイキージャズ・メッセンジャース
Lee Morgan