アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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40年目のゴダール アリアドネ・アーカイブスより

40年目のゴダール

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最初に、以下のあらすじを読んでいただきたい。

<あらすじ> 蟲伊国屋書店版 カバー解説より

”エレナ・トルラート・ファブリー二伯爵令嬢は国際的な大企業グループの実質的な支配者だ。彼女の周囲にはいつも共同経営者や大株主たちの取り巻きがいる。・・・(中略)・・・ある日、マゼラーティ・スパイダー(車)を自ら運転し外出した彼女は男を引きそうになる。ロジェ・レックスと名乗るその頼りげなげな男はエレナの屋敷に住みつく。彼女は彼を愛すが、それ以上に仕事に集中している。関係を悪化させた彼らはボートにの乗り二人きりで湖にでる。彼女は彼を溺れさせた・・・。ところが、ロジェの兄弟リサシャールと名乗るロジェと瓜二つの有能な男が現れ、エレナの事業や私生活に介入始めると、彼女はいやおうなしに変わっていく。やがて彼らはボートに乗り二人っきりで湖に出る・・・。”

ヴィスコンティの”郵便配達は二度ベルを鳴らす”のように、二度繰り返される。物語の結末は、湖上に出た二人は、今度は攻守を異にし、溺れかかった彼女を男が救う。やがて秋のおとづれを感じさせるスイス・レマン湖の風景描写とともに、別荘の部屋の電気が一つ一つ消されていて、客人たちも去る。この映画が世の解説者がいうように、愛と救済、死と再生を描いたものであるかどうかを言うのは困難である。

アラン・ドロンの主演への起用はヌーヴェル・バーグへの追憶だろう。ヒロインのエレナの命名は、ハリウッド映画”裸足の伯爵夫人”に由来するものであるという仮定を信用すれば、ハリウッド映画、あるいはグローバル化した多国籍企業の象徴であるということになろうか。そうすると二度起きた水難事故は、一度目はヌーヴェル・バーグが、二度目はグローバル企業の挫折という寓意となる。しかし、この寓意自身に大した意味があるとも思えない。

映画の中で多彩な登場人物たちは、通常の会話というものをしない。会話とモノローグと書物からの朗読が筋の信仰とは無関係に、同時に、字幕がスクリーンの端の三面に同時に現れる。たぶん、原語で見たと思われる初演当時のフランス人観客は、これを意味を失った音楽として聴くほかはなかったはずだ。

劇中の音楽もまた、たまたま場面を盛り上げるために用いられるバックグランドミュージックではなく、学音の”引用”であったはずだ。その、言葉の羅列の場合のように、ここの音楽の出典を知り、典拠を知らなければこの映画の完全な理解はあり得ないのかという気になるのだろうか。わたしはかろうじてダンテの”神曲”導入部のみを聴き分けることができた。

四十年目のゴダール!――”気違いピエロ”において物語的世界への決別を、そして”ヴェトナムを遠く離れて”において映像表現を超えて、認識としての芸術について語り、あの当時の私は感動した。芸術作品が如何にあるかではなく、芸術作品としての”美”が、まるでハムレットにおけるオフィーリアのように、悲劇性に先立って滅びの道を辿らなければならないという、あの時代認識の禍々しい終末論的な美学を、遠く遙かな残響として聴いた。歳月の隔たりは、感傷どころか、感慨というものさへ磨耗させてしまった。

あの時代の追憶に囚われ、いまだ表現性と物語性の解体を”現在進行形”において語るジャン=リュック・ゴダールとは誰か。現在進行形において語るとは、作家主体を映像的世界の外部にある種の特権性としては措定せず、即興性、ロケーション、物語的統一性の断片化、において語るということである。


ヌーヴェルヴァーグ
Nouvelle vague
監督 ジャン=リュック・ゴダール
製作総指揮 アラン・サルド
製作 サラ・フィルム
ペリフェリア
カナル・プリュス
ヴェガ・フィルム
テレヴィジオン・スイス・ロマンド
アンテーヌ2
フランス国立映画センター(CNC)
ソフィカス・アンヴェスティマージュ

脚本 ジャン=リュック・ゴダール
出演者 アラン・ドロン
音楽 パオロ・コンテ
デイヴィッド・ダーリング
ガブリエーレ・フェリ
パウル・ギーガー
パウルヒンデミット
ハインツ・ホリガー
ヴェルナー・ピルヒナー
ディノ・サルーシ
アルノルト・シェーンベルク
ジャン・シュヴァルツ
パティ・スミス
撮影監督 ウィリアム・リュプチャンスキー
編集 ジャン=リュック・ゴダール
配給 AMLF
広瀬プロダクション
公開 1990年5月23日
1990年11月15日
1991年11月11日
上映時間 90分
製作国 スイス / フランス
言語 フランス語
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