アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

トリュフォーの思春期 アリアドネ・アーカイブスより

 
事前に予備知識をほとんど持たなかったので、いかにもヌーベルヴァーグ風の映画手法や素材の選び方に、初期の作品を予想させた。1976年とは、わたしが映画鑑賞から遠ざかっていた時期なので
既に”柔らかい肌”や”突然炎の如く”のようなミステリアスな、大人の映画を作り終えた時期に該当するわけで、彼の早すぎた死の数年前、トリュフォーの中に一種の精神と感性のルネサンスのごとき現象が起きていたことを思わせる。この高揚感はその後も持続していいて、1977年のスピルバーグ監督に請われるままに映画初出演を果たした”未知との遭遇”にも見られるように、従来型のトリュフォーでは考えられない新しい出来事が起きていたことになる。

感想を一言で言うならば、トリュフォーの最高傑作と考えていいのではないかと思う。もちろん、映画はエンターティナーであり、音楽、舞台、衣裳も含めた視覚芸術としての総合性、として評価されなければならない。1981年の”終電車”はこれぞフランス映画だ、フランス映画の香気とはこうゆうものをいうのですよとばかり、カトリーヌ・ドヌーヴ、とはつまりフランス映画の象徴としての、そして最高級の女性への賓辞としての映画人としての女優の存在にささげられている。いわば国策映画ともいえる、フランス文化への賛辞なのである。”アメリカの夜”が映画産業、とりわけハリウッドをはじめとする映画人への賛歌であったように。いわばトリュフォーは人生の最後に、集大成とでもいうべき傑作を、少なくとも二つは残していることになる。

しかし功成り名を遂げた映画人としてのトリュフォーの存在はさりながら、ヌーベルヴァーグを出発点とした映像詩人のトリュフォーの最高傑作は、ということになると、この映画になるのではなかろうか。トリュフォーを語る場合のキーワード、幼年期の孤児性、ヌーベルヴァーグ、フランス文化と女性賛歌という要素が、ここでは統一態をなし、それがそのまま人生賛歌へと繋がっている。

映画はジュリアンという身なり貧しい転校生を受け入れるフランスの地方都市の風景から始まる。ジュリアンの風景には、”野生の少年”の余韻が、そして孤独な少年期を送ったトリュフォーの自伝的要素が暗示されている。しかしこの映画のジュリアンに姿を借りても、あるいは”野生の少年”においてもトリュフォーには不思議な遠慮があり、自分の思いを語ることはなかった。

この映画がトリュフォー映画の最高傑作と思うのは、この映画にはトリュフォーらしい節度や遠慮、さらには映像の客観性が欠けているからである。この時期にトリュフォーは思いもかけず、生涯をかけて秘め続けてきた思いを爆発させてもよいと考えた。

こうして幕切れ近くの小学校教師パトリックの感情の爆発を見ることができる。いままでおしゃべりやいたずらに余念のなかった腕白小僧が聞き入る姿をカメラは映し出す。秘められた思いとは、人間への信頼、人生という時間への信頼であった。この映画の、この瞬間においてトリュフォーの孤児性は克服された、と見るべきである。

そして最後の華やかなエンディング!行き違いになった青春前期の幼い二人が、上と下から、階段の踊り場近くでぎこちないキスをする場面、そしてこの場面を仕組んだクラスメートたちの盛大な拍手と歓呼の中に、思い出をひきずるように、この映画は終わる。映画だけが良いものなのではなく、人生もよいものなのだと、生きることへの信頼を呼びかけてこの映画は終わる、まるでトリュフォーの遺言ででもあるかのように。

goo映画より

解説・あらすじ - トリュフォーの思春期(1976)

解説
フランスの小都市の小学校を舞台に、子供たちが織りなすエピソードをユーモラスに綴る。監督は「アデルの恋の物語」のフランソワ・トリュフォー、脚本はトリュフォー自身と、「アデルの恋の物語」に引き続いて共作したシュザンヌ・シフマン、撮影はピエール・ウィリアム・グレン、音楽は故モリース・ジョーベールの旋律を使用、主題曲はシャルル・トレネの「日曜日は退屈」。出演は数百人からのオーディションに合格した、ジョーリー・デムソー、フィリップ・ゴールドマン、リシャール・ゴルフィー、シルヴィー・グレセル、パスカル・ブリュション、そしてトリュフォの愛娘エヴァトリュフォーなど。


あらすじ
フランス中部の平和な小都市。パトリック(ジョーリー・デムソー)の学校に新入生が入ってきた。彼の名前はジュリアン(フィリップ・ゴールドマン)といい、どこか陰のある少年だった。パトリックはいまや思春期の真盛りで、美容院を経営する友人ローラン(L・デブラミンク)の美人のママに夢中である。ワンパク少年たちの社会科を受け持つリシェ先生のアパートでも、毎日、子供たちのドラマが生まれている。2歳になったグレゴリーはペットの飼猫をベランダまで追いかけて、十階から墜落。だが幸運にも落下地点が軟土だったのが幸いした。キョトンとしたグレゴリーを見て、ママの方が気絶。一方、同じアパートに住む8歳になるシルヴィー(シルヴィー・グレセル)は、両親同伴の外出を拒否したために部屋に閉じ込められた。やがて空腹になったシルヴィーは拡声器でアパート中の住人に届くように「お腹が空いたッ」と連呼。気の毒がった隣人たちは、ロープとカゴを使ってパンや果物をシルヴィーの部屋へ運んでやった。クローディオとフランクのルカ兄弟はリシャール(リシャール・ゴルフィー)の散髪代800フランをまきあげ、なれない手つきでリシャールの頭を刈りこんでしまう。その頭を見て怒ったリシャールの父は、ローランの店へどなりこんだ。一方、パトリックのローランのママに対する想いはつのるばかりで、ついに意を決して花束を彼女に渡した。ところが彼女がパトリックに言った言葉は「お父さんによろしく」だった。身体検査の時、ジュリアンの身体が生傷だらけなのが発見され、彼の母親と祖母が幼児虐待の罪で逮捕された。学期末最後の日、リシェ先生は経験と心情を踏まえて子供たちに大演説をぶった。子供たちはその言葉をしっかりと受けとめたようだ。待望の夏休みはメランドール林間学校で過ごすことになった。そしてパトリックはマルチーヌ(パスカル・ブリュション)という可愛い子と知り合い、友人たちのひやかしを受けながら初めてのキスを体験するのだった。


キャスト(役名)
Geory Desmouceaux ジョーリー・デムソー (Patrick)
Philippe Goldmann フィリップ・ゴールドマン (Julien)
Richard Golfier リシャール・ゴルフィー (Richard)
Sylvie Grezel シルヴィー・グレセル (Sylvie)
Pascale Bruchon パスカル・ブリュション (Martine)
Claudio et Franck de Luca (De Luca)
Laurent Devlaminck L・デブラミンク (Laurent)
Eva Truffant エヴァトリュフォー (Patricia)
Bruno Staab (Childrens)
Corinne Boucart (Childrens)
Le Petit Gregory (Childrens)
Sebastien Marc (Childrens)
スタッフ
監督
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
製作
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
脚本
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
Suzanne Schiffman シュザンヌ・シフマン
撮影
Pierre William Glenn ピエール・ウィリアム・グレン
音楽
Maurice Jaubert モーリス・ジョーベール

Charles Trenet シャルル・トレネ
美術
Jean Pierre Kohut Svelko ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ
編集
Yann Dedet ヤン・デデ