アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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溝口健二”近松物語”をみる アリアドネ・アーカイブスより

溝口健二”近松物語”をみる

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この映画の凄いところは、愛の自覚の到来が、義理や人情、恥や道徳、時代の要求する倫理性等、あらゆる規範性を超えるところにある。

内面的で、つつましい商家の女将を香川京子が演じているが、この封建的規範を体現したようななよやかな大和撫子型の女性の変貌する姿が、古典を題材にとりながらいかにも現代演劇にしている。

商家の女将と手代の道行とは、最初から身分違いのゆえに、臣下の忠誠という感情に近かった。勿論思慕の対象が女性であるから、少々のエロティスムは免れない。しかし封建制の人間関係の中で節度をもったものであった。

しかし、二人が追い詰められ、行き場所を次第に狭めていく過程で、琵琶湖の湖上、入水自殺しようとして、番頭はふと漏らす。それが女心に偉大な変化を呼び寄せる。好意と愛は根本的に違うものだとこの映画を見て感じた。その時から、女は恥も外聞も捨てて、一ときでも男と地上の時間を生きながらえたいと思うようになったのである。

最後に男はまるで罠にかかりに行くように、女が保護された家に忍び入る。こうして相思相愛が確認されることによって、ふたりの獄門への道が開かれたのである。

馬上に、背中あわせに縄で括られ、刑場へ移送されるふたり、
京童たちは、忍従に忍従を重ねたあの二人が馬上過ぎゆくのを、かってない晴れ姿のようにみおくるのであった。


<あらすじ> goo映画
京烏丸四条の大経師内匠は、宮中の経巻表装を職とし、町人ながら名字帯刀も許され、御所の役人と同じ格式を持っていた。傍ら毎年の暦の刊行権を持ちその収入も大きかった。当代の以春はその地位格式財力を鼻にかけて傲岸不遜の振舞が多かった。その二度目の若い妻おさんは、外見幸福そうだったが何とか物足らぬ気持で日を送っていた。おさんの兄道喜は借金の利子の支払いに困って、遂にその始末をおさんに泣きついた。金銭に関してはきびしい以春には冷く断わられ、止むなくおさんは手代茂兵衛に相談した。彼の目当ては内証で主人の印判を用い、取引先から暫く借りておこうというのであった。だがそれが主手代の助右衛門に見つかった。彼はいさぎよく以春にわびたが、おさんのことは口に出さず、飽く迄以春に追及された。ところがかねがね茂兵衛に思いを寄せていた女中のお玉が心中立に罪を買って出た。だが以前からお玉を口説いていた以春の怒りは倍加して、茂兵衛を空屋に檻禁した。お玉はおさんに以春が夜になると屋根伝いに寝所へ通ってくることを打明けた。憤慨したおさんは、一策を案じて、その夜お玉と寝所をとりかえてねた。ところが意外にもその夜その部屋にやって来たのは茂兵衛であった。彼はお玉へ一言礼を云いにきたのだが、思いも寄らずそこにおさんを見出し、而も運悪く助右衛門に見つけられて不義よ密通よと騒がれた。遂に二人はそこを逃げ出した。琵琶湖畔で茂兵衛はおさんに激しい思慕を打明けここに二人は強く結ばれ、以後役人の手を逃れつつも愛情を深めて行った。以春は大経師の家を傷つけることを恐れて懸命におさんを求めた。だがおさんにはもう決して彼の家へ戻る気持はなかった。大経師の家は、こうして不義者を出したかどで取りつぶしになった。だが一方、罪に問われて刑場へと連れられるおさんと茂兵衛、しかしその表情の何と幸福そうなこと--。

キャスト(役名)
長谷川一夫セガワカズオ (茂兵衛)
香川京子 カガワキョウコ (おさん)
進藤英太郎 シンドウエイタロウ (大経師以春)
小沢栄 オザワサカエ (助右衛門)
南田洋子 ミナミダヨウコ (お玉)
田中春男 タナカハルオ (岐阜屋道喜)
浪花千栄子 ナニワチエコ (おこう)
菅井一郎 スガイイチロウ (源兵衛)
石黒達也 イシグロタツヤ (院の経師以三)
水野浩 ミズノヒロシ (黒木大納言)
十朱久雄 トアケヒサオ (鞠小路侍従)
玉置一恵 タマキカズエ (梅垣重四郎)
橘公子 タチバナキミコ (赤松梅龍)
小柳圭子 コヤナギケイコ (おかや)
上小夜子 ナカガミサヨコ (おその)
林加奈枝 コバヤシカナエ (おたつ)
三浦志郎 ミウラシロウ (手代)
種井信子 タネイノブコ (少女)
芝田総二 シバタソウジ芝田總二 (職人)
三上哲 (職人)
篠原隆 シノハラタカシ (職人)
岩田正 イワタタダシ (忠七)
天野一郎 アマノイチロウ (検校)
葛木香一 カツラギコウイチ (僧侶)
荒木忍 アラキシノブ (公卿の諸太夫
原聖四郎 ハラセイシロウ (船着場の役人)
北幸夫 ホリキタユキオ (船着場の役人)
金剛麗子 コンゴウレイコ (船宿の女中)
伊達三郎 ダテサブロウ (堅田の役人)
石原須磨男 イシハラスマオ (宿の番頭)
大崎四郎 オオサキシロウ (栗売り)
小松みどり コマツミドリ (茶店の老婆)
藤川準 フジカワジュン (切戸の村役人)
横山文彦 ヨコヤマフミヒコ (切戸の庄屋)

スタッフ
監督
溝口健二 ミゾグチケンジ

製作
永田雅一 ナガタマサイチ

原作
近松門左衛門 チカマツモンザエモン

脚色
依田義賢 ヨダヨシカタ

企画
辻久一 ツジヒサカズ

撮影
宮川一夫 ミヤガワカズオ

音楽
早坂文雄 ハヤサカフミオ

美術
水谷浩 ミズタニヒロシ

録音
大谷巌

スクリプター
川口松太郎 カワグチマツタロウ

照明
岡本健一 オカモトケンイチ

製作年 : 1954年

製作国 : 日本

配給 : 大映