アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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右寄りと左寄り、あるいは政治の色分けについて 2018 アリアドネ・アーカイブスより

 

右寄りと左寄り、あるいは政治の色分けについて

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時おりしも安倍政権に激震が走り、次期総裁選はいっけん混とんとするかに見えながら派閥の論理という、時代錯誤的な政局の論理で決まるという国民的な失望感のなかで、私が書いた二年前の政治論がたまたま読まれれている、――と言っても、私のブログの中の小さなお盆のなかの話なのではあるが――とはいえ、第二位以下を大きく引き離すという、これまでにもなく今までにない現象なのので、安倍総理の退陣を記憶に留める里程標として、ここに八月の第一位である凍害の論文を、りブログという形ではなく、全文をコピーしてご紹介する。
 
他の記事を押しのけて、これを読んでいただいたこと感謝いたします。(2020・9.2)
 
 
 
 

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 ひところ、一世を風靡した感がある右翼と左翼、政治を語る場合の色分け、右寄りと左よりと云う、政治を語る場合の常套句も、ベルリンの壁崩壊後はほとんど意味を失ったかのようである。ただ日本では、左翼社会党の凋落後も、依然として、たまには巷で使われたりする。 

 今日、左翼と云う言葉で生き延びている言葉は、生産性や効率性よりも社会保障に重きを置くと云う考え方である。一部に、世界の国際環境でもまれな共産党の名称を残すわが国に於いては、依然として革命の意義を撤回しないもの達もいるにはいるが、作戦上表面には押し出してこない。ちょうど新興宗教の街頭勧誘員が、名称を伏せて人生の一般論から語り掛ける事情に似ているかもしれない。

 ともあれ、昨今の日本に於いては、左寄りの意味は西欧流の社会民主主義の定義に近い。しかしなぜか、その名前の通りの社会民主党は没落してしまった。

 他方右翼なり右寄りの方々たちのことであるが、左翼の正当性が失われて以降、いよいよ右寄りを定義するのが難しくなった。自由経済をコントロールすると云う意味でならば、国家社会主義党も遣ったことだし、社会保障を充実させると云う意味でなら、スローガンとしては右も左も主張することに表面上は違いはない。何が違うのかと云うと、解り易く言えば、アメリカに対する立場である。

 右翼にも親米右翼と反米右翼があると云う言い方も可能だが、後者は今日殆ど意味を成し得ない。右寄りなり右翼とは、アメリカと仲良くすると云う意味である、乱暴な言い方であるが。

 アメリカと仲良くするとは、戦後アメリカの精神面・物質面、両面に渡る、安保体制の陰で築きあげて来た、総体としての戦後日本の在り方を尊重し、継続したい、と云う意思表示のことなのである。より本音に近い言い方をすれば、安保の枠組みの中で既得権益を享受し得た者たちが、今後も同様の体制を維持・保全したいと云う、思想も何もない、へったくれの、それだけのことなのである。幕末の、尊王攘夷の思想とは正反対の位相になっていることは、誠に皮肉なことと云わざるを得ない。

 ところで右寄りなり右翼と紛らわしいのが保守主義の考え方がある。保守とは、既得権益保全と云う意味だけではなく、イデオロギーとしての変化を求めない、どうしても変わらざるを得ない場合は、映画『山猫』の公爵のように、現状を維持するために立ち位置をずらさざるを得ないと達観することである。今日、この立場を標榜するもの達は少数で、あえて言えば天皇陛下がそのお立場かも知れない。戦後の象徴天皇制の「象徴」の意義を鋭意、創造的に解釈して、昭和・平成天皇二代の御代の意義を、変わらざるものとして保全しようと云うのである。現行日本国憲法の国事行為と国政行為の違いを越えて、公務と云う独特の概念のなかに、戦没者の尽きることのない慰霊と、災害等の日々頻発する国民の不幸を慰問慰霊することをもって戦後史の「伝統」として位置づけ、それを大古以来の政りと祀り事の行為としての意味の腑分けをとおして、現代に祀りとしての天皇と云う概念を復興
復権させる、その意思こそが、今上天皇のこの保守としてのお立場が、今日云う、いわゆる右寄りあるいは右翼の立場と背馳し、背理することは、皮肉な現象と云わざるをえない。

 今日の日本に於いては、保守主義の立場をとると云うことは、目先の効率と生産性に慎重な姿勢をとると云う意味で、左翼がかって見える、と云われるのも大きな戦後史後期の大きな特徴である。昨今の自民党保守主義でも何でもないのは明らかである。

 今後は、右寄りとか左寄りと云う言葉を使わずに、アメリカに対する立場に於ける異同、あるいは既得権益の維持保全をどう考えるかについて政治の色分けを整理したほうが素人には解り易いだろう。さも分かった風に、安易に右寄りとか左寄りとか言わないことである。