アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

大島一彦”ジェイン・オースティン――「世界一平凡な大作家」の肖像 アリアドネ・アーカイブスより

大島一彦”ジェイン・オースティン――「世界一平凡な大作家」の肖像
2009-11-08 19:27:35
テーマ:文学と思想

すきは好きなのだがジェイン・オースティンについては今まで改めて考えてみたことがない。
この新書版の薄い本も大学の図書館の授業と授業の間に立ち寄った図書室で手に取るともなく手にとって合間に読み進んだ。評伝も解説めいた論文も読んだことがないのではじめての研究書らしきものになる。

前半は人と生涯が語られる。他の本と少し違うのは日欧のオースティン受容史が述べられ、どのようにオースティンが読まれ語られてきたかに記述が割かれる。実を言うと、これだけ高名な作家にして東西の受容史を語らなければならないということは、「世界一平凡な大作家」にしてさもありなんの事情というものだろう。

後半は”ノーサンガー・ァベイ”、”分別と多感”、”自負と偏見”、”マンスフィールド・パーク”、”エマ”、”説得”の作品論になっていて、まことに好都合なジェイン・オースティンの入門書になっている。

この本の特色は古典主義とロマン主義の対対立軸をもとにして、従来細々たした日常些事の世界にか紛れて生きていたと思われていたオースティンを、18世紀から19世紀にかけての歴史的変動期に、一人のもの言うひと――思想家という過大な呼称はきっと彼女から軽蔑されそうなので――として位置づける視角であろう。

それゆえ大島は、オースティンの中でもどちらかというと出来が良くないといわれる”分別と多感”を取り上げ、この小説がダブルキャストであること、つまりエリナーとマリアンヌの姉妹に、古典主義とロマン主義という世界史的?対立の構図を、デイヴィド・セシル卿のオースティン論を引きながら読み込んでいる。セシル卿は言う――

ジェイン・オースティンは知的革命の時代に生きていた。18世紀の間教養ある人たちのものの考え方の大勢を導いていた理性と常識という基準が覆されつつあった。そして自らのものの考え方をすべて心の本能的な動きの導きに任せようとする新たな思想家たちが出現しつつあった。ワーズワースやコウルリッジやシェリーやバイロンといった当時の著名な作家のほぼすべてが、この革命派の側に加わっていた。彼らに抗して立っていたのはジェイン・オースティンただ一人であった”

ここに言う”革命派”の問題とは、後に”ルソー問題”と呼ばれる社会現象のことである。この間の事情については本意ではないので、この辺でおく。
最後に、最も好きなジェイン・オースティンの言葉を、最後の作品となった”説得”から引用したい。

”彼女は若き日に思慮分別を強いられ、年をとるにつれてロマンティックな恋愛感情を学んだ――不自然な始まりの自然な帰結であった”


大島一彦著”ジェイン・オースティン――「世界一平凡な大作家」の肖像”中公新書 1997年1月25日発行