アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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ル・コント”髪結いの亭主”をみる アリアドネ・アーカイブスより

 
ル・コントの映画は二本目ということになる。”仕立て屋の恋”同様、映画作りの巧みさには驚ろかせれる。この映画で描かれたした町の片隅の理髪店で密かに成就された秘められた中年の恋物語はフランス映画ならではと思われる。素材の特殊性がを処理するためには、ある程度の文化や感受性の蓄積がなければ不自然な映画に仕上がったであろう。

この映画は生の充実と老いというものを描いて、そのエピソードは神話的な域に達している。主人公が結婚することになる美容室の女店主がこの世のものとは思えない美しさなのである。ところで美しさというものは長続きしない。だから美しさがしぼむ前に女店主は主人公の前から姿を消す。雷が鳴り響く嵐の夜の最後の愛欲シーンがたとえようもなく哀しい。

とはいえ、前作とは異なって愛そのものがル・コントという人には分かっていたのだろうかという疑念を密かにもった。女性への神がかりじみた憧憬や無垢であることの喜びは、例えばフランソワ・トリュフォーであればもう少し違った形で描いたであろう、という気がする。

同じ少年の感受性がそのまま大人になったといっても、ルコントとトリュフォーでは何かが違う。その違いは愛を描く作家の眼差しが、ル・コントにおいて、モノ化の熟成度が遙かに高いのである。トリュフォーの場合は性にしても会いにしても少年期のたゆたいのままに、明瞭な像を結ぶことを拒否しているような処がある。ル・コントの場合は少年期の眼差しが中年の肉体にそのまま接木されたような不自然さがある。

トリュフォーにおいては、少年期の感受性が、それはそれであるがままに、年齢に応じて再定義され進化されていたのかも知れない。無時間的な純粋性を保つとはそうした普段の定義と再定義の交互作用を常に自分自身に課すことなのかもしれない。記憶や感受性というものがそのような動的な作用を失って、過去のある段階で成長を止め、固着化するようであれば、それはこの映画に見るような何か過去の生けるがごとき標本類を見せられた時に感じる 違和に通じているような気がする。


goo映画より

あらすじ - 髪結いの亭主(1990)

あらすじ
ドーヴィルの海岸沿いの家に住む少年アントワーヌ(アンリー・ホッキング)。彼は床屋に行くのが大好きだった。一人で店をやっている、ふっくらとした美人のシェーファー夫人(アンヌ・マリー・ピザーニ)の髪に触れる手触りや彼女の体臭にうっとりする時間は彼にとって至福のときだった。ある暑い日、白衣のボタンを多めにあけたシェーファー夫人の胸に見入ったアントワーヌは、興奮して何も手につかず、夕飯の時に「女の床屋さんと結婚する!」と宣言してしまう。突然のことに驚いた父(ローラン・ベルタン)は彼をブン殴ってしまうが、彼は心を固く決めたのだった。それから10数年後、大人になったアントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)は、一軒の床屋で美しい女理髪師マチルド(アンナ・ガリエナ)を見かける。「自分の結婚相手はこの人しかいない」と心に決めたアントワーヌは店に入り、散髪の途中で唐突に求婚の言葉を咳く。彼女は聞こえなかったようにそれを無視し、彼を外に送り出す。彼女の気持ちを測りかねながらも、アントワーヌは、「強く念じれば必ず願いは叶う」という父の言葉を胸にひたすら念じる。三週間後、店を訪れたアントワーヌにマチルドは「あなたの言葉に心を動かされました。あなたの妻になります」と。彼の夢は叶ったのだ。ささやかな結婚式をあげ、2人は一緒に暮し始める。夢が叶ったアントワーヌは彼女以外何も要らなかった。仕事も、友人も、子供さえも。2人の店に様々な客がやって来ては帰って行き、幸福で静かな日々が続く。昔のことはあまり語りたがらないが、アントワーヌを深く愛しいつも静かに微笑んでいるマチルド。しかし、ある雷雨の日、客のいない店の中で愛を交した後、マチルドは「買い物にいく」と言って雨の中に飛び出していく。次に出会った時、マチルドは川から引き上げられ息をひきとっていた。彼女は水の中に身を投げたのだ。「あなたが心変わりして不幸になる前に死にます」という手紙を残して。マチルドのいない店の中で、一人アラブの音楽にのせて踊り続けるアントワーヌの姿があった。

キャスト(役名)
Jean Rochefort ジャン・ロシュフォール (Antoine)
Anna Galiena アンナ・ガリエナ (Mathilde)
Henry Hocking アンリー・ホッキング (Antoine 8fa1b7 12 ans)
Anne Marie Pisani アンヌ・マリー・ピザーニ (Madame Shaeffer)
Roland Bertin ローラン・ベルタン (P8fa1a5re Antoine)
Maurice Chevit モーリス・シュヴィ (Agopian)
スタッフ
監督
Patrice Leconte パトリス・ルコント
製作
Thierry de Ganay ティエリー・ド・ガネー
脚本
Patrice Leconte パトリス・ルコント
撮影
Eduardo Serra エドゥアルド・セラ
音楽
Michael Nyman マイケル・ナイマン
編集
Joelle Hache ジョエル・アッシュ
字幕
寺尾次郎 テラオジロウ