アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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ブニエルの”昼顔”をみる アリアドネ・アーカイブスより

ブニエルの”昼顔”をみる

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この映画が作られた1967年とはパリの5月革命の嵐が吹き荒れる前の世界である。国内においてもヴェトナム反戦運動の機運が予感と期待を孕みながらその不気味な予兆を見せ始めた時代である。主演のカトリーヌ・ドヌーヴミシェル・ピコリなどはどちらかといえば良く知っている部類に属するにも関わらずこの映画を見なかったのは納得できた。

トーキー以来の映画がその華麗な映像と音響を使って到達し得た限りない美的な世界、それがブニエルの”昼顔”の世界なのである。ちょうど昔馴染みを見直すようにドヌーヴがこんなにも美しかったのかと改めて思い知らされた。

あの時代ではドヌーヴの一枚岩的な単純さが災いとなって、ジャンヌ・モローアニー・ジラルドー、そしてジェーン・フォンダのほうがはるかに美しいと信じていた。時はへめぐっての対面であり、同時にブニエルとの対峙でもあった。

映画の中のドヌーヴの複雑な性格の設定、貴族社会が崩壊した後ではリアリティを感じるというよりは、むしろ文学の世界では陳腐であるといってよい。大学教授や、医師、公爵、さらには金満家の東洋人などカリカチュアナイズされた脇役とドヌーヴの美しさがグロテスクな対比を見せている。

最後の真実をピコリ演じる人物に告げられ、奇跡的に復活した夫との十全感を描いた場面は、もちろんドヌーヴの夢なのだろうが、精神分析学的には真実を受け入れることによる運命の受容、ということになる。方向としては正しいのだqろうが、この二人が実際に辿った映画のあとの道筋はどうなのだろうか。

映画の中に出てくるジャン・ポール・ベルモンドまがいのパフォーマンスがあるが、あのチンピラの世界にも劣るパリ上流階級の退廃を描いたというべきなのだろうか。これも陳腐な解釈である。キリスト教的な教理が生み出した病理、というにしては、映像が美しすぎるような印象をもった。カトリーヌ・ドヌーブの魅力の引き出し方が、ひと頃の――ロジェ・ヴァディムの”悪徳の栄え”を踏んでいるらしいことも気になった。

あらすじ - 昼顔(1967)
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あらすじ
セブリーヌ(C・ドヌーブ)とピエール(J・ソレル)の二人は、仲の良い幸せそのものの若夫婦だ。二人はお互に心から愛しあっていた。セブリーヌもよく夫に仕え、満足な毎日を送っているのだが、彼女が八つの時、野卑な鉛管工に抱きすくめられた異常な感覚が、潜在意識となって妖しい妄想にかられてゆくことがあった。情欲の鬼と化したピエールがセブリーヌを縛りあげ、ムチで責めさいなんだ挙句、犯したり、卑しい男に強姦されるという妄想であった。セブリーヌの奥底に奇妙な亀裂が生まれていることを、ピエールの友人アンリ(M・ピッコリ)だけは、見抜いていた。アンリはなぜか、いつもねばっこい目でセブリーヌをみつめているのだった。セブリーヌはそんなアンリが嫌いだった。ある時、セブリーヌは友人のルネ(M・メリル)から、良家の夫人たちが、夫には内証で売春をしているという話を聞き、大きな衝撃を受けたが、心に強くひかれるものがあった。テニス・クラブでアンリを見かけたセブリーヌは、さり気なくその女たちのことを話した。アンリもまたさりげなくそういう女たちを歓迎する家を教えた。一時は内心のうずきを抑えたもののセブリーヌは、自分でもわからないまま、そういう女を歓迎する番地の家をたずねるのだった。そして、セブリーヌの二重生活がはじまった。女郎屋の女主人アナイス(G・パージュ)は、セブリーヌに真昼のひととき、つかの間の命を燃やすという意味で「昼顔」という名をつけてくれた。毎日、午後の何時間かを、セブリーヌは行きずりの男に抱かれて過し、夜は今までの通り、やさしく貞淑な妻だった。セブリーヌにはもはや夫を裏切っているという、意識はなかった。体と心に奇妙な均衡が生れ、一日、一日が満ち足りていた。しかし、その均衡が破れる日が来た。セブリーヌに、マルセル(P・クレマンティ)という、金歯だらけの口をした、粗野で無鉄砲で野獣のような男が、すっかり惚れこんでしまったからだ。マルセルは、夫と別れて自分のものになれと、いまは自分の行為を恐しくなったセブリーヌをしつこくおどしつづけ、セブリーヌが言うことを聞かないと知るや、無暴にも、ピエールをそ撃した。ピエールは命を取りとめたが、体の自由がきかず、廃人同様となってしまった。セブリーヌは生ける屍となったピエールを守って生きてゆこうと決心するのだった。二人は前よりも幸せな生活を送ることになった。そして、セブリーヌの身内にはあの変な、いまわしい妄想が、永遠に遠去かって行くのがわかった。

キャスト(役名)
Catherine Deneuve カトリーヌ・ドヌーヴ (Severine)
Jean Sorel ジャン・ソレル (Pierre)
Michel Piccoli ミシェル・ピッコリ (Henri Husson)
Genevieve Page ジュヌヴィエーヴ・パージュ (Mme Anais)
Pierre Clementi ピエール・クレマンティ (Marcel)
Francisco Rabal フランシスコ・ラバル (Hippolyte)
Macha Meril マーシャ・メリル (Ren8fa1a5e)
スタッフ
監督
Luis Bunuel ルイス・ブニュエル
製作
Robert Hakim ロベール・アキム
Raymond Hakim レイモン・アキム
原作
Joseph Kessel ジョゼフ・ケッセル
脚色
Luis Bunuel ルイス・ブニュエル
Jean Claude Carriere ジャン・クロード・カリエール
撮影
Sacha Vierny サッシャ・ヴィエルニ