トリュフォーの”終電車” アリアドネ・アーカイブスより
フランス文化の香気とはこのようなものである、と言わんばかりの力を見せつけた作品である。”アメリカの夜”が今世紀のハリウッドをはじめとする映画産業と映画人への賛辞で貫かていいたように、この映画は戦時下のパリを舞台として、消ゆることなき演劇の灯を守り続けた人々を描くことを通じて、トリュフォー映画の、映画人ドヌーヴを取り上げることで、戦後フランス映画への絢爛たるオマージュとなっている。
この映画はフランス映画を牽引力となって支え続けたカトリーヌ・ドヌーブという女優が銀幕の上に築き上げた二面性、神秘とスキャンダラス、聖性と獣性という二面性をそのまま映画に写し取って、主亡きあとのモンマルトル座を健気にも支える女座長とその裏面に潜む女心の葛藤を、パリ開放前後の不安の時代を背景に描いている。
この映画の制作当時、ドヌーブ、四十代前、いまだ十分に美しい。否、美貌の輪郭が崩れてきて来ていて女性としての匂うような優しさが滲み出てきたと言おうか。ドヌーブはこの映画の女座長のように日々日常を支える重責のため本当の自分自身に気づくことはない。
ナチ政権下の過酷な検閲制度のため、明日が確実にくるとは言えない状況の中で、一日一日を生き延びていくほかはない日々であった。一座懸案の苦心の”消え去った女”という演目の初日が好評のうちに演じきったとき、感あまって共演のベルナールにキスをしてしまう。本人はそのことを忘れてしますのだが――意識化の抑圧が効いたのか――ベルナールにとっては、彼女への愛を自覚する結果になる。
ヌーベルヴァーグは好きだが、長い間カトリーヌ・ドヌーヴは評価してこなかった。ジャンヌ・モローやアニー・ジラルドー、それからブリジッド・バルドーやジェーンフォンダのほうが美しいと信じていた。”アメリカの夜”のジャクリーヌ・ビセットの場合もそうだが、今更ながらに美しさを思い知らされたのは、やはりトリュフォーゆえにであったのだろうか。一観客である私もまた、劇中のベルナールのように、”強き女”の背後の優しさを感じていた。
goo映画より
解説・あらすじ - 終電車(1981)
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解説
ナチ占領下の混乱のパリを舞台に劇場を守る一人の女優の愛を描く。製作・監督は「緑色の部屋」のフランソワ・トリュフォー、脚本はトリュフォーとシュザンヌ・シフマン、台詞はトリュフォー、シフマンとジャン・クロード・グランベルグ、撮影はネストール・アルメンドロス、音楽は
、編集はマルティーヌ・バラーク、マリー・エーメ・デブリルとジャン・フランソワ・ジル、美術はジャン・ピエール・コユ・スヴェルコが各々担当。出演はカトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ジャン・ポワレ、ハインツ・ベネント、アンドレア・フェレオル、サビーヌ・オードパン、ジャン・ルイ・リシャール、モーリス・リッシュなど。
あらすじ
第二次大戦中、ナチ占領下のパリ。人々は夜間外出を禁止され、地下鉄の終電車に殺到する。この混乱の時代は、しかし映画館や劇場には活況を与えていた。そんな劇場の一つモンマルトル劇場の支配人であり演出家のルカ・シュタイナー(ハインツ・ベネント)は、ユダヤ人であるため、南米に逃亡し劇場の経営を妻であり看板女優のマリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)にまかせていた。彼女は、今、ルカが翻訳したノルウェーの戯曲『消えた女』を俳優のジャン・ルー(ジャン・ポワレ)の演出で上演しようとしていた。相手役には新人のベルナール・グランジェ(ジェラール・ドパルデュー)が起用された。ジャン・ルーは、この戯曲の上演許可のため、ドイツ軍の御用批評家ダクシア(ジャン・ルイ・リシャール)とも親しくしているというやり手である。連日稽古が続けられるが、稽古が終ると、ベルナールはカフェで数人の若者たちと会って何か相談し合っており、一方マリオンは暗闇の劇場に戻って地下へ降りていく。地下室には、何と、南米に逃げたはずのルカが隠れていたのだ。夜マリオンが会いに来るのを待ちうけ、昼は、上で行なわれている舞台劇の様子を通風孔の管を使って聞き、やってくるマリオンにアドバイスを与えた。つまり、彼は地下にいながら、実質的な演出者だったのだ。初演の日、『消えた女』は、大好評のうちに幕をとじるが、ルカは満足しなかった。そして、翌日の新聞でダクシアは酷評を書いた。マリオンは、舞台の稽古をしながら、いつしかベルナールに惹かれている自分を感じていたが、あるレストランで彼がダクシアに酷評の謝罪を迫ったことで彼に怒りをおぼえた。『消えた女』は好評を続けるが、ベルナールがレジスタに参加するために劇場を去ることになったある日、初めて会ったルカから「妻は君を愛している」と言われ動揺するベルナール。そしていよいよ彼が去る日、二人ははじめて結ばれた。連合軍がノルマンディーに上陸し、パリ解放も目前に近づいた。ルカは屋外に出ることが実現し、ダクシアは国外に逃亡する。そして、マリオンは、愛する夫の演出で、愛する若手俳優ベルナールと共演し、艶やかな笑顔で観客に応えているのだった。
キャスト(役名)
Catherine Deneuve カトリーヌ・ドヌーヴ (Marion Steiner)
Gerard Depardieu ジェラール・ドパルデュー (Bernard Granger)
Jean Poiret ジャン・ポワレ (Jean Loup Cottins)
Heinz Bennent ハインツ・ベネント (Lucas)
Andrea Ferreol アンドレア・フェレオル (Arlette)
Sabine Haudepin サビーヌ・オードパン (Nadine)
Jean Louis Richard ジャン・ルイ・リシャール (Daxiat)
Maurice Risch モーリス・リッシュ (Raymond)
スタッフ
監督
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
製作
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
脚本
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
Suzanne Schiffman シュザンヌ・シフマン
台詞
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
Suzanne Schiffman シュザンヌ・シフマン
Jean Claude Grumberg ジャン・クロード・グランベルグ
撮影
Nestor Almendros ネストール・アルメンドロス
音楽
Georges Delerue ジョルジュ・ドルリュー
美術
Jean Pierre Kohut Svelko ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ
編集
Martine Barraque マルティーヌ・バラーク
Marie Aimee Debril マリー・エーメ・デブリル
Jean Francois Gire ジャン・フランソワ・ジル
字幕監修
山田宏一 ヤマダコウイチ
この映画はフランス映画を牽引力となって支え続けたカトリーヌ・ドヌーブという女優が銀幕の上に築き上げた二面性、神秘とスキャンダラス、聖性と獣性という二面性をそのまま映画に写し取って、主亡きあとのモンマルトル座を健気にも支える女座長とその裏面に潜む女心の葛藤を、パリ開放前後の不安の時代を背景に描いている。
この映画の制作当時、ドヌーブ、四十代前、いまだ十分に美しい。否、美貌の輪郭が崩れてきて来ていて女性としての匂うような優しさが滲み出てきたと言おうか。ドヌーブはこの映画の女座長のように日々日常を支える重責のため本当の自分自身に気づくことはない。
ナチ政権下の過酷な検閲制度のため、明日が確実にくるとは言えない状況の中で、一日一日を生き延びていくほかはない日々であった。一座懸案の苦心の”消え去った女”という演目の初日が好評のうちに演じきったとき、感あまって共演のベルナールにキスをしてしまう。本人はそのことを忘れてしますのだが――意識化の抑圧が効いたのか――ベルナールにとっては、彼女への愛を自覚する結果になる。
ヌーベルヴァーグは好きだが、長い間カトリーヌ・ドヌーヴは評価してこなかった。ジャンヌ・モローやアニー・ジラルドー、それからブリジッド・バルドーやジェーンフォンダのほうが美しいと信じていた。”アメリカの夜”のジャクリーヌ・ビセットの場合もそうだが、今更ながらに美しさを思い知らされたのは、やはりトリュフォーゆえにであったのだろうか。一観客である私もまた、劇中のベルナールのように、”強き女”の背後の優しさを感じていた。
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解説
ナチ占領下の混乱のパリを舞台に劇場を守る一人の女優の愛を描く。製作・監督は「緑色の部屋」のフランソワ・トリュフォー、脚本はトリュフォーとシュザンヌ・シフマン、台詞はトリュフォー、シフマンとジャン・クロード・グランベルグ、撮影はネストール・アルメンドロス、音楽は
、編集はマルティーヌ・バラーク、マリー・エーメ・デブリルとジャン・フランソワ・ジル、美術はジャン・ピエール・コユ・スヴェルコが各々担当。出演はカトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ジャン・ポワレ、ハインツ・ベネント、アンドレア・フェレオル、サビーヌ・オードパン、ジャン・ルイ・リシャール、モーリス・リッシュなど。
あらすじ
第二次大戦中、ナチ占領下のパリ。人々は夜間外出を禁止され、地下鉄の終電車に殺到する。この混乱の時代は、しかし映画館や劇場には活況を与えていた。そんな劇場の一つモンマルトル劇場の支配人であり演出家のルカ・シュタイナー(ハインツ・ベネント)は、ユダヤ人であるため、南米に逃亡し劇場の経営を妻であり看板女優のマリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)にまかせていた。彼女は、今、ルカが翻訳したノルウェーの戯曲『消えた女』を俳優のジャン・ルー(ジャン・ポワレ)の演出で上演しようとしていた。相手役には新人のベルナール・グランジェ(ジェラール・ドパルデュー)が起用された。ジャン・ルーは、この戯曲の上演許可のため、ドイツ軍の御用批評家ダクシア(ジャン・ルイ・リシャール)とも親しくしているというやり手である。連日稽古が続けられるが、稽古が終ると、ベルナールはカフェで数人の若者たちと会って何か相談し合っており、一方マリオンは暗闇の劇場に戻って地下へ降りていく。地下室には、何と、南米に逃げたはずのルカが隠れていたのだ。夜マリオンが会いに来るのを待ちうけ、昼は、上で行なわれている舞台劇の様子を通風孔の管を使って聞き、やってくるマリオンにアドバイスを与えた。つまり、彼は地下にいながら、実質的な演出者だったのだ。初演の日、『消えた女』は、大好評のうちに幕をとじるが、ルカは満足しなかった。そして、翌日の新聞でダクシアは酷評を書いた。マリオンは、舞台の稽古をしながら、いつしかベルナールに惹かれている自分を感じていたが、あるレストランで彼がダクシアに酷評の謝罪を迫ったことで彼に怒りをおぼえた。『消えた女』は好評を続けるが、ベルナールがレジスタに参加するために劇場を去ることになったある日、初めて会ったルカから「妻は君を愛している」と言われ動揺するベルナール。そしていよいよ彼が去る日、二人ははじめて結ばれた。連合軍がノルマンディーに上陸し、パリ解放も目前に近づいた。ルカは屋外に出ることが実現し、ダクシアは国外に逃亡する。そして、マリオンは、愛する夫の演出で、愛する若手俳優ベルナールと共演し、艶やかな笑顔で観客に応えているのだった。
キャスト(役名)
Catherine Deneuve カトリーヌ・ドヌーヴ (Marion Steiner)
Gerard Depardieu ジェラール・ドパルデュー (Bernard Granger)
Jean Poiret ジャン・ポワレ (Jean Loup Cottins)
Heinz Bennent ハインツ・ベネント (Lucas)
Andrea Ferreol アンドレア・フェレオル (Arlette)
Sabine Haudepin サビーヌ・オードパン (Nadine)
Jean Louis Richard ジャン・ルイ・リシャール (Daxiat)
Maurice Risch モーリス・リッシュ (Raymond)
スタッフ
監督
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
製作
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
脚本
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
Suzanne Schiffman シュザンヌ・シフマン
台詞
Francois Truffaut フランソワ・トリュフォー
Suzanne Schiffman シュザンヌ・シフマン
Jean Claude Grumberg ジャン・クロード・グランベルグ
撮影
Nestor Almendros ネストール・アルメンドロス
音楽
Georges Delerue ジョルジュ・ドルリュー
美術
Jean Pierre Kohut Svelko ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ
編集
Martine Barraque マルティーヌ・バラーク
Marie Aimee Debril マリー・エーメ・デブリル
Jean Francois Gire ジャン・フランソワ・ジル
字幕監修
山田宏一 ヤマダコウイチ