NHKドラマ”大仏開眼(前編)” アリアドネ・アーカイブスより
NHKの歴史ドラマを見るともなく見る。素人くさい演技、書割じみた舞台設定、と思っているうちに、ドラマの確かさに引き込まれてしまった。誰の脚本だろう。これは相当のものだ。大仏建立をめぐる天平史の最も分かり難い部分、歴史のキーパーソンにまさか吉備真備がいるとは!吉備真備とは、どちらかといえば地味で影のような人物、日和見主義者の一人と思われていたこの人物に焦点を当てることで、いくつもの天平史のなぞが氷解する。
”大仏開眼” NHK 夜7時半~9時
運命のはかなさや権力への執着、救いを求める心。大仏建立という壮大な営みに刻まれた、今も変わらぬ人間模様が描かれている(木元健二)”
吉備真備など、マイナーな歴史上の人物に焦点を当てたことが面白い。吉備真備とは、言ってみれば理念型の学者・政治家、藤原氏と対抗したという意味では、後の菅原道真を髣髴とさせる奈良時代の大物政治家の一人である。ただ道真のようにあっさりと左遷されたりはせずに、結局は失脚に終わるとはいえ、しぶとく抵抗するところがよい。
登場人物は有名な聖武天皇と光明皇后、その娘の安部内親王、天然痘で病死する時の権力者藤原四兄弟、いわゆる北家である。光明皇后と通じ雌伏のときを経てやがて牙を剥く藤原・南家の雄・藤原仲麻呂。聖武天皇の母・宮子に取り入る快僧・玄防。在野の仏教界の大立者・僧行基。皇親政治に執念をたぎらす反体制派の政治家橘諸兄と大伴家持を初めとする旧豪族たち、実に多彩な人物像である。