アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

世界の思想家1”プラトン”藤沢令夫編 アリアドネ・アーカイブスより

 
プラトンについては今まで何度か気になりながら、ソクラテスの弁明等二三冊読んだが記憶が散漫で印象が鮮明に結ばない。一つは対話体という独特の文体が平易であるがゆえに、その分だけ哲学用語の明晰な概念性や知識の既知性を利用できなくて、理解に手間取っているというのが現状だろうか。それにプラトンは二千数百年も人物でありながら奇跡的に大部の著作が残っているらしくて手をつけるといっても膨大・茫漠としており、最初はこの入門書本から採りあげることとした。

この本はプラトンの著作群を三つに分け、それぞれプラトンの膨大な著作から抜粋によって構成されており、ゆわゆる解説書ではない。最初に30ページ足らずの藤沢令夫の思想と生涯が置かれており、簡単な哲学者プラトンの通史となっている。とりあえず翻訳とはいえプラトンの思想に直截触れることができるような仕組みになっている。

これから二ヶ月間ギリシャ哲学の概要を学習していくつもりだが、この書を読み終わった段階で感じたのは以下の二点であった。

一つは、イデア論について。現象と背後の本質界の二元論が通常の現代人の感覚には合わないと思うので、プラトンの実像は事実その通りだったのか、それとも私たちの見解を是正しうるような真のプラトン理解というものがあるのだろうか。
二つは、晩年の問題の多い、シケリアでの悪名高い哲人政治の有り様について。プラトンの行動の支離滅裂ぶりは彼の認知の衰えか、それとも単なる靜観態としての哲学者ではない実践家としてのプラトンの動的本質が表れた出来事とみるべきなのか。この点はプラトンにとってのソクラテスが、畏敬の存在として終生祖述の対象として呪縛し続けたと見るべきかどうか。少なくとも伝承を通じて得られるソクラテスの姿は現代人の感性として見た場合に違和感を感じることの方が多い。

以上ように、現状でのプラトン理解は甚だ波乱含みなのである。少なくとも現状流布されている範囲でのプラトン理解は、決して好ましいものとはいえない。


世界の思想家1 ”プラトン”藤沢令夫編 昭和52年4月第一刷 衒針渕