アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

トリコロール三部作”青の愛”をみる アリアドネ・アーカイブスより

 
キエシロフスキのトリコロール三部作は、”赤の愛”に続いて二作目ということになる。
”赤の愛”では運命の糸のように赤い糸が経巡り、人々の離散と結合を条件づける。”青の愛”では有能な作曲家である夫と幼い娘を交通事故で亡くした女性の再生までの道のりを描いている。

この映画の中で過不足なく語られているのは田舎の邸宅を去ってパリに一人住むことになったアパルトメンの下階に住む売春婦の若い女性との交流であろう。ある夜、何の接点もない彼女から深夜呼び出しを受ける。言ってみると彼女の職場は場末のストリップ小屋で、彼女は娘の動向を探りにきた父親と舞台で鉢合わせする破目になる。彼女の立場では今日一日のステージを阻むこともできず、その悲しみを誰かに伝えたくて電話をしたというのである。彼女は一夜の、無償の人の善意にかけたのであろう。人生を御破算にするつもりの主人公にとってもこの夜は何らかの影響を与えただろう。

過去への傷心に苦しむヒロインに追い打ちをかけるように、過去死んだ夫に秘密の恋人がいたことが明らかになる。こうして幸せな家族の記憶は、物質的な意味でも精神的な意味でも奪い去られることになる。

彼女にはほのかな思いを寄せる夫の友人がいる。すべての記憶とともにこの世から抹殺するつもりでいた亡き夫の未完成の協奏曲をその友人が完成すると聞いてヒロインは動揺する。しかし協奏曲をその友人と合作するうちに次第に彼の愛を受け入れるようになる。

愛は寛大ですべての存在に許しと慰藉を与える。亡き夫の愛人のお腹には子供の存在が。彼女は家屋敷をすべてこれから生まれ出でようとする未来の子供に譲る決意を選択する。



あらすじ
ジュリー(ジュリエット・ビノシュ)は自動車事故で夫と娘を失う。夫は優れた音楽家で欧州統合祭のための協奏曲を作曲中だった。ジュリーは、田園地帯にある屋敷をすべて引き払い、それまでの人生を拾ててパリでの新しい生活を決意する。そして夫の未完の協奏曲のスコアも処分してしまう。ジュリーは、空っぽになった家に密かにジュリーに思いを奇せていた夫の協力者であったオリヴィエ(ブノワ・レジャン)を呼び出し、一夜を共にするが、かれの目が覚める前に家をあとにする。手には彼女と過去を結ぶ唯一のあかし、“青の部屋"にあったモビールを握っていた。パリでの生活を始めるジュリーは静かな毎日を過ごしながらも脳裏にはあの旋律が甦ってきて、焦燥感と不安に駆られていた。老人ホームにいる母親(エマニュエル・リヴア)もジュリーを虚ろな目で見ているだけだった。そんなある日テレビをつけるとオリヴィエが処分したはずの楽譜を持ち、自分が曲を仕上げると宣言しているのを見る。そして夫が見たこともない若い女性と写っている写真も公開されていた。大きな動揺の後、ジュリーは、オリヴィエに曲の手直しを夫のメモを元に指示し、また夫の愛人で彼の子を身ごもっているサンドリーヌ(フロランス・ぺルネル)に屋敷をゆずる。ついに完成した曲をオリヴィエは、ジュリーの作品として発表すべきであると言う。ジュリーは、ひとしきり考え、彼の元に向かうことを、彼の愛を受け入れることを決意する。



解説
フランス国旗を構成する三つの色をモチーフにキェシロフスキが監督した「トリコロール」三部作の一作目。監督のクシシュトフ・キェシロフスキは、ポーランド人で、70年代を通じて数多くの短編ドキュメンタリーを手がけ、「アマチュア」、「殺人に関する短いフィルム」、「ふたりのベロニカ」などで国際的名声を得ている。74年の『終わりなし』からポーランドを代表する弁護士にして理論家のクシシュトフ・ピェシェヴィチとの共同脚本作業を始める。製作はマラン・カルミッツ、エグゼクティヴ・プロデューサーはイヴォン・クレン。また音楽のズビグニエフ・プレイスネル、撮影のスワヴォミール・イジャックは、それぞれポーランドで数多くの作品を手がけていて、キェシロフスキとも長年ともに作品を手がけている。出演は、「存在の耐えられない軽さ」、「ポンヌフの恋人」、「ダメージ」の現在フランスを代表する女優ジュリエット・ビノシュ。舞台俳優として高い地位を得ており、ジャック・リヴェット監督の「彼女たちの舞台」で映画俳優としても活躍し始めたブノワ・レジャン。そして脇もエレーヌ・ヴァンサンやエマニュエル・リヴァなどの演技派俳優で固められている。


キャスト(役名)
Juliette Binoche ジュリエット・ビノシュ (Julie)
Benoit Regent ブノワ・レジャン (Olivier)
Helene Vincent エレーヌ・ヴァンサン (La Journaliste)
Florence Pernel フロランス・ペルネル (Sandrine)
Charlotte For (Lucille)
Emmanuelle Riva エマニュエル・リヴァ (La mere)
Hugues Quester ユーグ・ケステル (Patrice(mari de Julie))
Philippe Volter フィリップ・ヴォルテール (L'agent immobilier)
スタッフ
監督
Krzysztof Kieslowski クシシュトフ・キェシロフスキ
製作
Marin Karmitz マラン・カルミッツ
製作総指揮
Yvon Crenn イヴォン・クレン
脚本
Krzysztof Piesiewicz クシシュトフ・ピェシェヴィチ
Krzysztof Kieslowski クシシュトフ・キェシロフスキ
撮影
Slawomir Idziak スワヴォミール・イジャック
音楽
Zbigniew Preisner ズビグニエフ・プレイスネル
編集
Jacques Witta ジャック・ウィッタ
録音
Jean Claude Laureux
Claude Lenoir クロード・ルノワール
字幕
古田由紀子 フルタユキコ