アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

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わたしの東京物語 (2) アリアドネ・アーカイブスより

わたしの東京物語 (2)
2019-05-30 06:21:09
テーマ:映画と演劇

親と子の間に介在する愛情の不均衡、リア王の昔から描かれた真実は、小津の映画では、まず第一に子供達家族の言動は物事の「自然」として描かれる。つまり忠孝の規範理念や道徳律の建前よりも自分たちの事情の方が優先される、というのである。ひとの自然なあり方は道徳的な価値とは必ずしも重なり合わない、というのである。ひともまた生物種の一つである限りにおいて自分の事情を優先させるのは物事の自然な成り行きであり自然な行為である、と言うのである。自然に棹さす行為は、リア王や父親思いのコーデリアのように滅んでいかなければならない。自然の掟に従う者はアンティゴネーのように、ことによれば反逆罪を身に受けたものとしてイデオロギーに殉じなければならない。
小津が描いたのは、まずはひとの自然なあり方の風景であった。
しかし小津の偉大さは、ひとの自然を描くにとどまらず、人間の自然をも描いた点である。
人間としての自然とは、ひととしての自然なあり方を超えて希求する動体的過渡性の中にしかひとはひとであることができない、人間であることを見いだし得ないという、静態的認識を超えた超越論的意味、もう一つの人間の自然なあり方なのである。