アリアドネの部屋・アネックス / Ⅰ・アーカイブス

アリアドネ会修道院附属図書館・アネックス一号館 本館はこちら→ https://ameblo.jp/03200516-0813  検索はhttps://www.yahoo.co.jp/が良好です。

「アリアドネの部屋」の縁起について(2009/3/19) アリアドネアーカイブスより

 

原文:

https://ameblo.jp/03200516-0813/entry-12505534772.html?frm=theme

 

 いまからおよそ十年前書いた「”アリアドネの部屋”の縁起について」は当図書館のマニフェストのような位置を占めています。

 ご存知でない方もいらっしゃると思うので書いておこうと思います。アリアドネの神話は迷宮と云う宇宙の謎を解くために分け入ったギリシア神話の英雄テーセウスに冒険を傍で支えた妻のような立場にあった人の物語です。テーセウスは神話の英雄ですから万難を潜り抜けて見事神秘獣ミノタウロスの首級を上げるのですが、行きはよいよいの喩えどおり、迷宮よりこの世への帰路こそ困難を極めるものでした。その困難な課題の手引きをしたのがアリアドネです。しかし残念なことに、アリアドネは困難な課題の解決とともに捨てられてしまうのです。ここまでがアリアドネ神話の前編になります。後編は以下の本文をお読みください。

 さて、テーセウスに捨てられるアリアドネとは誰なのでしょうか。そしてテーセウスとは何者なのでしょうか。そして未だ登場しないディオニソスとは誰でしょうか。なお、付録としてもう一つのギリシア神話イカロスの翼」を掲載しています。私のむかしの職業が建築であったことも何か因果めいて感じられます。それでは、――

 

 

 

 
知ってるよ!という方もあるかもしれませんが、少し聞いてください。

アリアドネというと、普通は「糸」の話ですよね。まるで糸の因縁につながるように、建築家の親子ダイダロスイカロス、怪物ミノタウロス、怪物退治で有名なテーセウスの物語が手繰り寄せられます、そしてアリアドネが、この物語の登場人物のすべてです。お話の詳細は有名なので他書に譲ります。物語の方は一応めでたしめでたしということになるのですが、ところがこの物語の後半部というものがあって、アテネに向かう凱旋途上、休憩のために立ちよった島で、ついうたたねしていたわれらがヒロイン・アリアドネは何と島に置き去られてしまうのです、あるいは捨てられてしまうのです。どうしたことでしょう!

アリアドネの部屋」は、その謎を解くために開設された空想上の修道院なのです。ここで言いだしっぺとして、ひとつだけ無責任な放言をしておきます。テーセウスとは誰か?ヨーロッパ的理性、と読んだらどうなるでしょうか。それでは「理性」に見捨てられるアリアドネとは誰か?

むかし読んだ本に「薔薇の名前」というのがありました。映画にもなりました。ボンド役者のショーン・コネリーがとても素敵でしたね。私は老人で、視力・脚力ともに弱く、とてもあの精悍な修道士とその弟子コンビのようにはまいりません。せいぜい二番煎じの老いたるオイディップスのように、めしいた両眼を傾げ杖をつきながら、若い方の力を借りて手を引いてもらうほかはないのですが・・・・・もちろん最終地点まで歩きつけるとは信じていません。

下記に、過去に私が発表した学協会論文の中から、関係のある部分を抜粋しました。私は文章を書くときほとんど原典に当たるということをしませんので、誤記や記憶違いがあったらお許しください。


《迷宮での怪物退治の話》
むかしむかしアテナイでは、ある事情でクレタ島に住むミノタウロスという怪物に生贄を奉げる悲しい定めがありました。アテナイの英雄テセウスは生贄の中にまぎれこみ、王女アリアドネの糸玉の助けを借りて怪物を退治し、迷宮からの脱出に成功しました。こうして二人は約束によりナクソス島まで逃れてきたのですが、不幸にも別れ別れになりました。ある言い伝えでは彼女が眠っている間に島に置き去りにされてしまったというのですが。別の言い伝えでは嵐によって心ならずも別れ別れになったとも語り伝えられています。彼女はずっと後になって様々な遍歴を経たのち、ディオニソスに救われて結婚することになります。

《ダイダロス父子の話》
実は先のアリアドネが怪物退治の知恵を借りたのは迷宮の設計者にして世界最初の建築家ダイダロスでした。彼はアリアドネに知恵を授けたためミノス王の怒りをかい、迷宮の奥深く幽閉されることになります。しかし知恵者であると同時に優れた技術者であった彼は、息子のイカロスと相談して二対の翼を作り迷宮からの脱出に見事成功します。しかし諌めを聞かず有頂天になったイカロスは太陽に近づきすぎて、天からまっしぐらに落ちて海中深く沈んでしまいました。

「かってギリシア神話における世界建設者にして人類最初の建築家ダイダロスと、その息子にして科学・技術のパトス的運命の象徴たる鬼子イカロス、ヨ―ロッパ的理性・ロゴスの正嫡たるテセウスと、癒しの女神にして臨床的知の具現たるアリアドネとが、それぞれが辿ることになる、かそけきも数奇にして怪異な、円形劇場を見晴らす蒼穹のディオニソス祝祭劇と永劫回帰的運命の果敢な展開軸について、いま人は暗澹たる古色を帯びた鈍色の銅鏡の中に、神々の流竄と再生のドラマとをおぼろげなる驚怖の倒立像として思いださないであろうか。」
(以上三つとも、日本技術士会CPD論文2008年6月より)